研究紹介

「陽射しは水の底まで折れ曲がるようにした届いた

 そこにまるで探しているものがあったかのようにね」

秦 基博さんのプールという曲の冒頭の歌詞です。

物理をかじった人なら「ああ光の屈折だ!」となるかと思います。

ならなくてもいいです(*'▽')

秦さんの言う通り、光は空気中から水の中に入るとき曲がって進みます。

さてここで問題です。光はどのように曲がるでしょうか。

答えは③です。

さて、今の問題の中で、「いやいやこんなのあるわけないじゃん」と

一番最初に選択肢から消えたのはおそらく①かと思います。

じゃあ、水以外の物質だったら①はあるのでしょうか?

水じゃなくても、①はありえない?

昔の科学者たちもそう考えていました。

なぜなら自然界にはないからです。

しかし1968年、ロシアの科学者であったVeselagoは

「もし①のように曲がる物質があったらどうなるかな」

と考えた論文を発表しました。

そもそも光は「電磁波」といって、電場と磁場の波でできています。

屈折の仕方は「屈折率」といってその電場と磁場の通りにくさを決める、

媒体の誘電率と透磁率によって決められます。

自然界にある物質は②③のように屈折率は正の値を持ち、

①は負の値を持ちます。(負の屈折率)

Veselagoは、屈折率の定義から、誘電率と透磁率の両方を負にできれば

負の屈折率が実現されると考えました。

とても独創的な論文ではありましたが、

先にも述べたように自然界には「ない」のだから、

考えたところで何にもならないと思われたようです。

しかし、その論文が発表されてから30年後、

「自然にないのなら作ればいいじゃないか」

と負の屈折を示す媒体を作ってしまった人がいます。

J.B.Pendryというイギリスの科学者です。

Pendryは考えだした媒体がこれです。

思ってたのと違う…?笑

金属のリングとワイヤーが配列されているだけなんです。

これだけで光が曲がる…とは思えませんよね。

確かに、私たちが見る光では曲がりません。

私たちが見える光は「可視光」といいます。

上図の媒体はそれよりも波長が長い

(電子レンジなどに使われている)マイクロ波に対して負の屈折を示します。

私たちが自分の手をじっと見つめても細胞が見えないように、

マイクロ波の波長よりも媒体の構造が小さいために、

一つ一つの構造は見えずにマイクロ波には有効的には一様な物質に見えます。

そして、「共振」という物理現象を用いて、

誘電率と透磁率をそれぞれ負の値にします。

Pendryらはこれを理論的に示し、翌年、実験により実証されました。

Pendryが考えた媒体は、自然界にはない性質を示す媒体であることから、

「メタマテリアル」と名付けられました。

メタとはラテン語で「越えた」という意味を持ちます。

私はこのメタマテリアルの研究をしています。

小林研究室

東京学芸大学 小林研究室 (宇宙・素粒子研究室)

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